Y.SO.13

 

「では始めます。ご唱和ください」

「「よろしくお願いします!」」

「我らバスター510は」

「「人々の安全と安心を守り!」」

「社員一同、全身全霊で」

「「心の安寧と世界の平和を守ります!」」

「今日も一日」

「「よろしくお願いします!」」

 

 

業務その4  依頼事業に合成獣

 

 

 

「おはようございます! 今日から配属された昴(すばる)・蔵槌(くらつち)です。これからより一層職務

に励もうと思いますので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします!」

 

 と、言いながらも、内心は「どうしてこうなった!?」でいっぱいである。

 去年の夏。学校の卒業を控え、ダメ元で受けた新卒採用試験。まさかとは思ったがみごと合格し内定を得、俺は今年から社会人となる。入社までの期間、秋と冬に行われた合宿はなかなかキツかったが、それも大企業で働くためだと思えば軽いものだ。

 

 だがしかし、問題は入社してからの配属先だった。

 

 俺が入った株式会社バスター510は、魔物退治を請け負う会社である。全国に支部を持ち、各地で魔物の討伐と被害軽減に務める、大陸でもそれなりに規模の大きい企業だ。

  バスター510言えば、あの総決算ラグナロクにも常連出場していて、何を隠そう俺が入りたいと思った理由もそれだった。

 あの、まさに戦士! という戦い方に憧れ、魔物退治のスペシャリストという謳い文句も、とにかくなんかもうかっこいいと思った。

 面接では、前回大会での戦いぶりをアレがよかった、コレがかっこよかったと熱弁し、最後に「ぼくもいつかラグナロクに出たいと思います!」と締めたが、面接官には「いえ、魔物討伐の方をがんばってくださいね」と若干苦笑いで言われた。

  だが、それでも内定が出たのである。封筒が届いたときは、喜びのあまり行きつけの定食屋で奮発してしまった。いつものしょうが焼き定食ではなく、焼肉定食ゴハン大盛りにしてしまった。美味かった。

 

 さて、そんな憧れの企業に入社できたはいいものの、問題は入社二日目に起こる。

 そもそも、この会社の募集は事務職と戦闘職。そして新卒の大多数が戦闘職を希望する。そりゃそうだろう。なんといってもここは『魔物討伐会社』。現場の第一線で戦いたい、という希望者が多いのは当然のことである。募集人数だってこちらの方が多い。俺もまた、例に漏れず戦闘職を希望した。

  これから俺はバンバン魔物を処理し、地域の住民の安全と平穏を守り、目指すは決算表彰の新人賞獲得。ゆくゆくは近隣住民の皆さんに温かく見守られラグナロクに出場し、仲間たちとの友情の絆で魔王を倒して喝采を浴びる。

 ……と、そこまで上手くいくとは思わないが、いずれそうなったらいいなぁ、ぐらいは考えていたのだ。

 

 それが、まさか。

 

「朝から元気やなー。はい、おはよう。キメラ特別対策室室長のフォードですー。昴くんやっけ? これからよろしゅうなー」

 

 まさか、自分だけ戦闘部署を外されるとは思わなかった…!

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

 内心のショックを抑え、俺は笑顔で対応する。第一印象は大事だからな。

 戦闘職に就いた者は全員「戦闘実務室」に所属し、そこから各支店へと送られる仕組みになっていた。しかし、自分の配属先に書いてあった部署は、「キメラ特別対策室」。

  話に聞くと、同期たちの中でその部署に入ったのは俺だけらしく、またここ数年この部署に入る人はいなかったという。人数も少なく、正直どんな活動をしているのか社員たちも詳しくない部署。そんなところに、俺は飛ばされたのである。

  ……この部署は、いったい何なんだ? ろくに説明もされなかった昨日の研修を思い出し、再び「どうしてこうなった!?」と心で泣く。

  そりゃ確かに試験官は「合宿での戦闘相性、体力や判断力を見て、配属先は総合的に決定します」と言っていたが、それは支部のどこに行くかという話であり、まさか戦闘職にすら就けないなんて誰が想像しただろうか。

 

 え、嘘だろ? 俺、そんなに成績悪かったかなぁ…!

  今までそこそこ運動もできたし、訓練も悪くなかったと思ってたのに……。あーもうヤダ。入社三日目にして不安しかない……。

 仕事面でもそうだが、生活面でも今後への心配が募る。これからは社宅を借りての一人暮らし。

 自炊に洗濯、今まで任せてきたことを自分でしなければならず、加えて仕事というものは最初が肝心にして山場。手を抜かないのはもちろんのこと、気も抜けない。

 正直キツい。だが、今の尽力が自分の将来に響いてくると考えると、頑張らないわけにはいかなかった。

 

 そして今日、迷いながらも地図を頼りに小道を進み、たどり着いた看板の下。本日からの配属先となったその事務所は。

 「ちょっと狭いけど、勘弁してなー。あと、散らかっとるもんは適当に何とかしてもらってええし」

  本当に小さく、ボロかった。

 マジでここも大企業バスター510の一部なのかと、疑いたくなるほどに。

 挨拶もそこそこに、きょろきょろとあたりを見渡す。デスクに連なる書類の山。棚から引っ張り出してきたらしいグラムノートが開いたまま放置されている。

 「まぁとりあえず、こっち座り」

  背の低いソファに腰かけ、目の前の人物が新人を歓迎する。

 

 キメラ特別対策室室長、フォード・T・セダン。実年齢は分からないが、壮年というのも失礼な、見目たくましい男性。額から右目の瞼を通って頬まで走る傷跡が痛々しいが、人好きのする笑顔に打ち消されて強く印象には残らなかった。むしろ目立つのは紺色のスーツの下。分厚い胸板が隠しきれていない。自分の将来の姿を思い浮かべるように視線をなぞると、まくり上げた袖から昴の脚ほどはありそうな豪腕が覗いている。

  というかこの人、ラグナロクに出場してた人じゃなかったか…? 魔王相手に善戦して、いやそれでも負けてたけど、そんな人がなんでこんなところに……。

 

 数年前の映像を思い出そうとする昴に、フォードは耳慣れない西大陸の方言で話しかける。

「昴くん、びっくりしたやろ? まさかこんな部署に入るとは、って感じちゃう?」

「え、ええ……」

「素直でよろしい!」

「ありがとうございます……。あの、俺、パンフレットとかちゃんと見たんですけど、この部署のことってどこにも載ってなくて……」

 

 どもりつつも、事前に調べてくることが適わなかった旨を言い訳する。しなかったのではなく、したかったができなかったのだ。

 それでも社会人らしく、「結果がすべて」と言われるのだろう。そう思っていた昴の、うれしい誤算。

 「せやねん! うちの部署な、どこにも載ってへんねん。やからキメラ対策室なんてだーれも知らん! あ、飴ちゃんいる?」

  差し出された小包装の袋を読む。『わらびもち味』……絶妙に判断に悩む。明らかに不味そうなゲテモノ味なら丁重にお断りしようと思っていたが、微妙に「おいしいかもしれない」と思わされる。

「あ、ありがとうございます……」

 手のひらに転がるソレを凝視する。丸まった昴の灰色の瞳が、快活に笑う白い歯をとらえた。

 年齢に見合った落ち着きなど感じさせず。健康的に日焼けした頬が目にまぶしい。室長はケラケラと笑い声を上げ、気にせんでええで! と新人の肩をパシンと叩く。

 

「笑いごとではありまセン。だから毎年希望者ゼロなんじゃないデスか」

 

 すると、事務所にいたもう一人、銀縁眼鏡の人物がようやく話に入ってきた。

 キリッと真面目に、それでいてサバサバした印象を受ける女性。ここにきて真っ先に事務所内を案内してくれた先輩社員だった。名は、ベレル=CVT(シーヴイティー)。

 

 勤務時間が開始した今、腰かける室長の隣に立ちベレルは独特の口調でズバッと注意を入れる。まったく経緯の感じられないジト目が、室長を貫通して昴のつむじにまで刺さる。

 「ベレルちゃん。渡す用の資料持ってきてー」

  だがそんな視線なぞものともせず、室長はゆるーい顔でひらひらと手を振る。

「……了解しまシタ」

 何か言いたげに微妙な沈黙の末、ベレルが眼鏡の位置を戻しながら席を離れていった。それでも去り際に「ちゃん付けはやめてクダサイ。ハラスメントですヨ」とくぎを刺すのは忘れない。

 ショートスカートのスーツがビシッと決まった後ろ姿。部屋の隅に積み上げられた箱の陰に、人影が消える。

 

 昴はもう一度室内を見渡した。

 本当に、散らかった事務所だった。書類はバサバサと床に落ち……、なんてことは流石にないが、おそらくこれまでの累積、おびただしいデータの数々が、デスクの上に乱雑に置かれている。最近話題になった未解決事件の記事が書面に印刷されている一方で、何やらよく分からない数式と化学記号の羅列がびっしりと埋め込まれたものもあった。それらを見る限りでは、魔物討伐との関連性がわからない。魔物によるニュースならば、被害にはなっても事件にはならないし、化学記号が何かを意味しているならば、その内容は理解できるはずだった。

 

「さて、このキメラ特別対策室なんやけど、業務はそのまま文字通り、キメラの処理を行う専門部署や。全国各地から『キメラ研究をしてるんちゃうか』という疑惑の場所とか人物とかの情報がうちに入ってくる。その中で黒が確定した所から、うちらが出動してキメラの駆除を行うってのが主な仕事やな」

「はぁ」

「毎日の仕事はほとんどが情報の整理と調査になる。入ってくる情報の中には本物もデマも混ざっとるし、かといって手遅れになったらあかん。毎日忙しいで~。いや、昴くん来てくれて助かったわ!」

 

 室長がそう言い終わると、見計らったかのようにベレルが現れる。手にはいくつかの書類。ツカツカと歩み寄ってそのまま冊子数冊を昴に差し出すと、その一番上にあるプリントをめくるように指示を出した。

 無機質な文字が躍る、白の文書。その紙に視線を落とす。

 

『瞬間理解! キメラのすべて

        ~これ読んで分からなかったら何読んでも分からないと思う~』

 

 ……サブタイトルで脅しをかけてくるのやめてください。

「これ……」

「キメラについての解説デス。通常世間に出回ってないコトも載ってマスので、三日後までに覚えてきてクダサイ」

「え」

 ……三日後?

「そうそう! 三日後にな、キメラ駆除の仕事があんねん! 今回結構大きいからな、即戦力期待しとるで~」

 

 ……は!?

 

「ベレルちゃん、あいつから最終確認通知来てないか見てもらえへん?」

「今朝来てマシタ」

「おお、確認するわ」

 

「え、いや、ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 あれよあれよと言うに話が進みそうだったのを慌てて止める。これを流されたら、のちのち大変なことになる、そんな気がした。

「えーと、いろいろ訊きたいことがあって……」

 

 サッシを上げた窓の外は白く薄暗い。雨が降り出す直前の雲が窓枠の中いっぱいに広がっていた。

 まるで今の俺の心境のようだ。

 おそらく二人にそんな気はないのだろうが、勝手に感じている居心地の悪さに、逃げ出したい衝動に駆られる。超新人という自分自身の立ち位置の分からなさ。何を言ったらいいのか、何を言ってはいけないのかの判断もつかない。

  これを訊いてもいいのだろうか。訊かない方がまずいのだろうか。

 そう思いながらも、結局昴は苦笑いで口を開いた。

 

「あの、まず、キメラって、本当にまだいるんですか?」

 

 

 

 ――キメラ。漢字にすれば、合成獣。

 まずはその存在について正しく知ってもらわなあかんなぁ。というのが室長の第一声。冊子の文字をなぞる、無骨な指の先を見る。

 

 『キメラとは、二種類以上の他生物を融合させ、新たな生物を作り出す技術。ないしは作り出された新生物の総称である』

 

 その存在が確立したのは、昴が生まれる何年も昔のことだった。

  2体以上の異なる個体を生きたまま分解し、一つの個体として再構築する。そうして生まれた新生物は、素材となった生物もともとの特徴を受け入れ、展開し、新たな特性を持つという。それは異種交配や品種改良とは異なり、全くの新しい化け物の誕生を意味していた。

  そう聞いてすぐに思い浮かぶのは、マウスと金魚を合成した有名なキメラの写真だった。記録に残る限り初の合成実験成功例であり、理科の教科書にも載っている。

 毛の生えた胴体に赤いひれがうごめき、小さい耳と歯がそろった頭部にはうろこが並んでいた。学生の時に見たそれは、歪でおぞましく、不思議と美しかった。

  人道を逸した異形の美術品。記録によると、その化け物は生み出されて最初に双方異なる目を開け、辺りを見渡し、絶望の悲鳴とともに死んでしまったという。

 

『この技術を使って生み出されたものは、必ず《予想外》の結果を産み落とす。一つとして例外なく、創造者の予想を越えていく』

 

 そう言い残したのは、キメラ技術を生み出した男。

 当時禁忌とされていた魔導と科学の融合を実現させ、合成という概念を生み出した天才。

 ムジカ博士。

 しかし、そんな偉業をやってのけた男の人生は短かった。いや、期間にすれば長かったかもしれないが、その研究と展望を考えれば早すぎる死だった。

 だだっ広い荒野の中心で死体が発見される。他殺か自殺かは明らかになっておらず、そして周囲もそんなところには注目しなかった。男は技術を別の研究に利用することなく、正当な権利継承をすることもなく、あっけなくこの世を去ってしまったのだ。

 彼が残したのは、キメラという存在の証明と、基本的な生成方法を記した文書だけ。

 

「それが、中途半端に研究者たちを刺激してしまってなぁ。普通に考えて、何万とおる様々な種族に、これまた何万とおる種族をくっつけんねんで? その可能性は無限大、とまではいかんでも、えっらい大きい数字になるんは分かるやろ?」

「……」

 昴は黙って頷く。

 

 ムジカの死後、残された研究者たちはキメラ技術の実用化を目指した。そのために合成の実験を繰り返した。そもそもが異端とされた技術だったこともあり、国や社会で起用されるためには明確で安定した成果が必要だった。

 しかし数値上ではクリアした問題も、実際に合成してみるとなかなかうまくいかない。性格や体の頑丈さ、遺伝子の差一つで、あっけなく実験結果は変わってくる。

  そうなると、もう後は成功するまで繰り返すしかない。

  結果、数多の生物が実験の失敗という形で死亡した。

 それでも、研究者たちは「明日の成功のための失敗」だといってはばからない。最後には「頑丈な素材がほしいから」といって人を実験にかける者まで現れたという。

 

 その実状を重く見たのが、時の英雄ヲリヴィヱ・ヨトゥンヘイムだった。

『これより、キメラの合成は我々が監視する。もうこれ以上、彼らのような哀れな生き物を生み出すことは、我々ガーディアンが許さない!』

 彼は研究者たちの非人道的な行為を嘆き、怒り、その権威と威光を余すことなく使って、キメラ研究所のほとんどを解体させた。

  そうして、世界にはガーディアン完全管理下の研究所だけが残った。

 

「でも、ガーディアンが崩壊したときに、その施設も全部潰されちゃって、それからはもうキメラは世界から消えてしまった、って習いましたが」

 

 俺は最後にそう告げる。そうだ。俺の世代が学校で教わった結論は、「もう世界にキメラは存在しない」という一点だった。

 「……まぁ、そうなんやけどなぁ」

 けれど、室長はちょっと困ったように笑って逆接の接続詞を述べた。学舎での教えをきちんと身に着けている元学生に「ちゃんと勉強してんなぁ」と感心したように述べて、同じ調子で言葉を続ける。

 

「ガーディアンが崩壊して失われたのは、キメラ技術の管理って部分のみやってん」

 

 秘匿技術となってたはずの生物合成に関する術式は、いつのまにか研究者伝えで広がっていたのだという。崩壊の後、キメラの生成を制止する者はいなくなってしまった。そしてコソコソとキメラを創る者が現れた。もちろん公にではなく、社会の裏側で。

 さらに言えば、その時の世界規模の混乱、動乱も無関係ではなかった。情報屋連合が破壊されたことで戸籍などの記録も消えてしまい、その結果行方不明になった人間が大勢いる。孤児も多かった。人間が消えたのなら、ケモノたちは言わずもがな。

  技術としてキメラが進化するには、十分な期間と素材が集まってしまっていた。

  百年も昔のことだが、たった百年前のことでもある。以後、摘発され捕まる数が増える一方、キメラ生成者は水面下で確実に数を増やしている。

 

「……というわけで、実のところキメラ被害っちゅーんはここ数年で伸びる一方やねんな」

 室長は、恋愛御法度の女優が実はイケメン俳優と付き合っていたのを告げるような口調でそう言った。

「…………」

  昴は眉を上げて口を閉ざす。反応に困る沈黙が降りる。

 それはまさに生きた情報だった。教科書で勉強してきただけでは分からない、社会に生きている現状というものだった。

 歴史の教科書の単元は『ガーディアン崩壊』で終わる。それから昴が生まれるまでの約六十年間のでき事は、伝え聞きでしか知りえない知識のグレーゾーンだった。

 実際、作り出されたキメラを討伐する仕事やその被害を食い止める仕事は年々と増えているらしい。

 昴が知らない、つまりは一般市民が知らない間に、世界は刻一刻と変わっていっている。そんな感覚を言葉にすることもできず、新人はただ目を瞬かせるだけだった。

 

「そういう訳デ、キメラ討伐という仕事は最近需要が高まってきた新興事業の一つなのデス」

 ベレルが、言葉を引き継いで締めくくる。その表情は冷たく興味のなさそうな色をしつつも、どこか誇らしげだ。

 しかし、ならば、新たな疑問が浮上する。

「新興事業なのに、この部署三人なんですか…?」

 曇天からついに降ってきたのか、ぼつ、ぼつという大粒の雨音が窓を叩く。心臓の音に合わせて緩急をつける音が、妙に耳に残る。

 せやなぁ、という小さいつぶやきが部屋にしみこんでいった。

「ちょっと前までは、もう一人おったんやけどなぁ」

「退職なさったんですか?」

「そんな感じや」

 軽い調子ながらも、フォードは寂しそうに頬を撫でた。

 

 遠くで聞こえる雨音が、静かすぎる部屋に雑音を与える。湿気た雨の匂いが部屋に充満する。空気はだんだんと入れ替えられていって、読み違えてはいけない緊迫感に神経をとがらせた。

 しわのついたスーツのジャケットを纏ったまま背筋を伸ばし、室長は目尻を下げて笑った。自嘲気味な、それでいて納得したような、不思議な落ち着きを払ってどこか遠くを見つめる。

 

「で、うちの部署はな、確かに新しい割に、人は少ない。でも、それでも平気やねん。むしろ、これ以上やったら多すぎ言ぅて怒られてまうわ」

「……誰に怒られるんですか? 後藤社長に、ですか?」

「いんや。あいつやあいつ。あんときうちと戦ってた奴」

「……?」

 気を取り直したように、室長は元の調子を取り戻す。最初の印象から変わることのない、実に快活なニヤニヤ顔。

 

 ラグナロクおたくの昴くんなら、知っとるやろ?

 

「魔王、や」

「……は?」

「組織ヴィランズの頭首。通称、魔王。三日後のキメラ駆除で我々が協力依頼をかけている相手デス」

「あいつがなぁ、足手まといが増えるから連れてくんなって言いよるねん」

「ま、まお……、は? はぁぁあ!?」

 

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